日本呼吸器外科学会専門医制度の創設から呼吸器外科専門医制度へ

日本呼吸器外科学会が日本医学会加盟したことの意義と当時の状況

安元 公正 (産業医科大学医学部第2外科学講座教授)

 外科系学会の専門医制度は1978年の日本外科学会認定医制度に始まる(表1)。この時期多くの学会で認定医制度が構築され始めたために1980年に各学会間の整合性をはかる必要性が認識され学会認定医制協議会が設立された。当時呼吸器外科医にとって最も関係の深い学会であった日本胸部外科学会では1981年に胸部外科学会認定医制度を開始し、この中には指導医選定の制度も含まれていた。1984年になって第一回の呼吸器外科研究会が開催され1987年から日本呼吸器外科学会となった。1986年には医師専門医制度を広い視野で協議するために学会認定医制協議会と日本医師会・日本医学会によるいわゆる三者懇談会が発足した。
 このような背景の中で、日本呼吸器外科学会は1989年に日本呼吸器外科学会専門医制度を開始した。
この制度の資格要件は、1. 日本国の医師免許証を有すること、2. 継続10年以上本学会会員であること、3. 日本胸部外科学会認定医であること、4. 本学会の定めた認定施設および関連施設において所定の修練カリキュラムに従い、通算10年以上の修練を行い、その間に所定の手術経験数を有すること、5. 別に定める業績の基準を満たしていること、の5項目であった。この中では特に業績基準が高く設定してあり、この内容については呼吸器外科学会施行細則をご覧頂きたい。10年毎の更新制がとられ、更新条件は、1. 専門医であり、資格取得後10年経過し、その間引き続き本学会会員であること、2. 一定の研究活動を行っていること、さらに別に定める基準を満たす業績を有すること、3. 呼吸器外科の臨床に従事していること、の3項目であった。この高い資格基準により、呼吸器外科学会専門医認定者は500名を大幅に超えることはなかった。
 1993年に三者懇談会が外科、内科をはじめとする14の基本領域を決定し、外科系の専門医制度は外科学会の専門医を取得した後で取得する方式が打ち出された。1996年には呼吸器外科、心臓血管外科、消化器外科及び小児外科に関する専門医制度は外科専門医制度を一階とする二階部分にサブスペシャリテー領域として配置される方向性が容認された。この一連の経過の中で専門医の認定は各学会を離れて第三者認定が強く想定された。このために2001年には学会認定医制協議会はその名前を専門医認定制協議会さらに日本専門医認定制機構と改称し着々と準備が進められた。これにあわせて呼吸器外科領域に関しても日本呼吸器外科学会と日本胸部外科学会を母体としつつも第三者組織として呼吸器外科専門医認定機構が設立され、呼吸器外科専門医制度の制度設計が計られ「呼吸器外科専門医制度規則」ならびに「同施行細則」が最終案として確定された。この「呼吸器外科専門医」の申請資格は1. 日本国の医師免許証を有すること、2. 外科専門医または日本外科学会認定医であること、3. 卒後修練期間7年以上を有すること、4. 認定修練施設において3年以上の修練期間を有すること、5. 修練期間中に別に定める手術経験を有すること、6. 呼吸器外科学に関する別に定める一定の業績(学会発表、論文発表)および研修実績(学会参加)を有すること、7. 日本呼吸器外科学会および日本胸部外科学会の会員であり、3年以上の会員歴を有すること、の7項目である。この制度の呼吸器外科手術の術者としての要求度は最低18症例であり、専門医としてはあまりにも少なすぎるという意見と5年間の有効期間後の更新条件の中に臨床実績が要求されていないことに疑問も出されていた。一方、日本胸部外科学会の認定医制度は呼吸器外科専門医、心臓血管外科専門医、消化器外科専門医が整備される運びになったために2002年をもって認定業務を終了すること、胸部外科学会指導医選定業務も2007年をもって終了し終了後は終身指導医制度とすることが決定された。
  ところが2002年になって、厚生労働省は突然に「広告のできる専門医」認定組織の9項目にわたる外形基準を大臣名で告示した(表2)。このことによりそれまでの専門医認定制協議会の努力は水泡と帰し、専門医の認定が各学会にゆだねられることになった。加えて修練期間が5年以上とされたために一階部分を担う「外科専門医」はそれまでの4年間の修練期間を5年間に変更せざるを得なくなり、さらに初期臨床研修制度が開始されたことから、呼吸器外科専門医を含む外科専門医のサブスペシャリテー部門は修練期間を大きく圧迫されることになった。
この9項目の外形基準の中で、学会は法人格を取得する義務が課せられ、法人格を取得していなかった学会はこぞって法人格の取得のために奔走せざるを得なかった。日本呼吸器外科学会、日本胸部外科学会も特定非営利活動法人としての認可を受け、2004年に呼吸器外科専門医制度はそれまでの経緯から日本呼吸器外科学会、日本胸部外科学会の両学会の「呼吸器外科専門医合同委員会」として「呼吸器外科専門医」の認定業務を行うことが決定された。制度の中身については、先に述べたように専門医の要件としてはやさしすぎるという意見も多く出されたが、他領域の広告のできる専門医が次々に誕生する状況の中で、呼吸器外科学会会員の利益を優先して5年後の見直しを条件に先に決定されていた制度を基本的にそのままの形で運用することとなった。これに伴い、それまでの「日本呼吸器外科学会専門医」は名称の重複があることから「日本呼吸器外科学会指導医」と改称して、呼吸器外科専門医制度上の指導医として機能するように変更された。なお、制度の上では、日本胸部外科学会指導医も専門医制度上の指導医と位置付けられた。なお、呼吸器外科学会指導医制度も胸部外科学会指導医制度と同様に2007年に認定業務を終了することが決定された。
このようにして新しい呼吸器外科専門医制度は2004年に発足し初回専門医認定者901名(試験による新規認定者=42名、移行措置による認定者=859名)を認定し「広告のできる呼吸器外科専門医」が初めて誕生した。2005年には1044名、2006年には1139名と順次その認定数は増え続け、2008年7月の時点では1312名となっている。ちなみに、呼吸器外科学会指導医認定者は508名で希望者500名は2009年から終身指導医に移行する。
 一方で、5年後の見直しに当たる2009年度の更新時期にあわせて、呼吸器外科専門医に対するアンケート調査、他学会との擦り合わせ、日本専門医認定制機構からの要望・指導も受け入れながら出来上がったのが改訂版「呼吸器外科専門医制度規則」、呼吸器外科専門医制度施行細則」である。こちらはホームページをご覧頂きたい。

表1.呼吸器外科に関する専門医制度のこれまでの経過
1978年日本外科学会認定医制度
1980年学会認定医制協議会:各学会間の整合性の調整
1981年日本胸部外科学会認定医制度(含む指導医制)
1986年三者懇談会:学会認定医制協議会、日本医師会、日本医学会
1989年日本呼吸器外科学会専門医制度開始
1993年三者懇談会が14の基本領域を決定:外科、内科、整形外科
2001年学会認定医制協議会は専門医認定制協議会と改称
呼吸器外科専門医認定制機構設立:第三者認定を想定
2002年広告のできる専門医:厚生労働大臣告示
専門医認定制協議会が法人格を取得:中間法人日本専門医認定制機構
呼吸器外科専門医合同委員会の設立:呼吸器外科専門医認定制機構からの移行
2004年日本呼吸器外科学会専門医制度を日本呼吸器外科学会指導医制度に変更
呼吸器外科専門医認定開始:現在までに1,318名が認定
表2.専門医資格を認定する団体の厚生労働省基準(外形基準)
1学術団体として法人格を有していること
2会員数は1,000人以上であり、かつその8割が医師または歯科医師であること
3一定の活動実績を有し、かつその内容を公表していること
4外部からの問い合わせに対する体制が整備されていること
5医師または歯科医師の専門性に関する資格(以下「資格」という)の取得条件を公表していること
6資格の認定しにさいして5年以上の研修の受講を条件としていること
7資格の認定にさいして適正な試験を実施していること
8資格を定期的に更新する制度を設けていること
9会員および資格を認定した医師または歯科医師の名簿が公表されていること

2009年7月9日掲載