日本呼吸器外科学会理事長あいさつ

一般社団法人 日本呼吸器外科学会
理事長 豊岡 伸一
岡山大学学術研究院医歯薬学域 呼吸器・乳腺内分泌外科学 教授
令和7年5月に東京で開催された第42回日本呼吸器外科学会学術集会の会期中に行われた本年度の第一回の理事会において、吉野一郎先生の後任として、第5代理事長に選出いただきました。この場をお借りして、ご報告を兼ねてご挨拶申し上げます。
本学会は1984年に発足した呼吸器外科研究会を前身とし1987年に日本呼吸器外科学会として設立されました。その後、1991年には日本医学会に第89分科会として加盟を果たし、2003年には特定非営利活動法人化、そして2023年には一般社団法人へと移行するなど、発展をし続けてまいりました。
このような学会設立と発展は先人の情熱、信念、そしてご尽力の賜物です。本学会の目的は、①呼吸器外科に関する医学と医療の発展、②呼吸器外科医の育成と生涯教育、という主に2つの柱を通して、国民の福祉に寄与することにあります。このような歴史と使命を有し、また、世界の教科書にも影響を与える業績を挙げてきた我が国の呼吸器外科の基盤を担う本学会を、会員の皆様に寄り添いながら運営していくことが、私に課せられた重要な責務であると考えています。
そのために、現在の医療を取り巻く環境や社会情勢を踏まえ、理事長として本学会の運営方針と抱負について述べさせていただきます。
第一に、診療の質と若手教育の充実に関してですが、近年、複数のロボット手術支援システムの普及などより、低侵襲手術の選択肢が広がっています。その一方で、これらの新技術を安全に導入・普及させるための体制整備、ならびに開胸手術を含めた外科技術の継承と、若手外科医の教育・育成の強化が急務となっています。診療の質と医療安全の確保は、本学会の最も重要な責務の一つであり、魅力ある教育システムの構築は、若手医師の確保にもつながるものと考えています。幸い、本学会のU-40事業である「JACS-NEXT」は、若手会員自らが積極的に活動を推進しており、頼もしい限りです。今後もこの活動を支援し、次世代の呼吸器外科医を学会全体で育てていきたいと考えています。
次に、研究の推進と国際的なプレゼンス向上に関する事項ですが、本学会ではこれまで、多くの優れた臨床研究が実施され、その成果が世界に発信されてきました。今後、技術革新と新しい治療法の開発・導入が加速する中で、産学連携も視野に入れた新たな研究体制の構築についてしっかりと検討する必要があります。これにより、研究資金の確保と呼吸器外科領域における研究の一層の推進、そして我が国の呼吸器外科の国際的なプレゼンスのさらなる向上が期待されます。また、学術的な発展には、若手医師の研究への参画をさらに促進することが不可欠です。研究を通じた人材育成は、国際的視野を持った外科医の養成にもつながり、先人たちが築いてこられた本学会の国際的評価をさらに高めていくものと確信しております。加えて、海外の呼吸器外科関連学会との連携を深めることで、情報交換の活性化や今後の共同研究の推進も視野に入れていきたいと考えています。
最後に、学会運営においては、新専門医制度への対応、多様性の推進、働き方改革、学会活動の情報発信のあり方、さらには持続的な運営体制の構築など、多くの課題に取り組んでいく必要があります。多様性の観点からは、ジェンダーバランスの改善や、ライフイベントなどにより一時的にキャリアに空白が生じた医師が、再び活躍しやすい環境づくりが求められます。また、学会の発信力を強化することも重要です。学会の活動や呼吸器外科領域の最新情報を、医療従事者のみならず社会全体にも分かりやすく伝えていくため、デジタル技術やSNSを活用した広報活動の充実を図ってまいります。 さらに、学会の持続的発展のためには、財政基盤の強化も不可欠です。産学連携の推進や学会関連事業の多様化を通じて、安定した運営資金を確保し学会を支える仕組みを整備していく所存です。
以上、呼吸器外科における診療・研究・教育、そして学会運営に関する課題と今後の方針について述べさせていただきました。これらの課題に対しては、役員・会員の皆様、関係各位と力を合わせ、より良い学会の未来を築くべく邁進してまいります。そして本会の会員でよかったと思えるような学会組織にしたいと考えております。日本呼吸器外科学会のさらなる発展のため、引き続き皆様のご支援とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。
令和7年5月